青山学院大学陸上競技部の原晋監督講演会。ビジネスとスポーツと教育に共通する大切な考え方「自律」と「心理的安全性」と「怪我しないこと」

青山学院大学陸上競技部の原晋監督の講演「決断力~その先にあるもの」を拝聴。スポーツだけでなくビジネスや教育に共通して大切な考え方に共感しました。

目次

挫折の経験を活かして活躍する原監督

原監督は中学から陸上を始め、高校時代は主将として全国高校駅伝で準優勝。その後、中京大学で日本インカレ5000mで3位入賞。卒業後は中国電力の陸上競技部に1期生として入部されました。

しかし、怪我が原因で満足な結果を残せず、5年で選手を引退。それから10年間は陸上競技からまったく離れ、同社の営業部で一般的なサラリーマン生活を送ることとなりました。

原監督は、「華々しく入部したにも関わらず、なんの成果も残せなかった」という反省から、今度はビジネスの世界で成功しようと努力したそう。

講演では語られませんでしたが、「伝説の営業マン」と呼ばれる存在だったそうですよ。

転機は2004年。大学OB会の紹介で青山学院大学陸上競技部の監督に就任(このときは3年間の契約社員。成果が出なければクビ)。奥様の応援もうけて、改革を進めた結果、2009年には33年ぶりの箱根駅伝出場となりました。

さらに、2015年には箱根駅伝総合優勝、2017年には箱根、出雲、全日本の大学駅伝3冠を達成。2018年は4連覇、2022年は6回目の優勝を果たしました。

その間、2019年には青山学院大学の教授に就任。

青学の学生の活躍を支援ことに成功しているのはもちろん、ご本人自身も学生陸上から社会人ランナーとなり挫折した選手のセカンドキャリアとして、ものすごい活躍ぶりです。

今回は「スポーツとビジネスには共通項がある」とお話をスタート。

青山学院大学陸上競技部への指導方針と組織の成長の変遷や学生たちへの声がけなどの実例を交えて、その考え方をご紹介くださりました。

「自律」した人が集まる「自走する組織」

その考え方は、まるで会社の営業チームの管理職のようでした。

まず、青学は強い選手を集めるのではなく「組織で強くなるチーム」とのこと。

組織が強くなるために必要なことは「理念・行動指針・ビジョン(短期・中長期)を共有し、明確な評価基準を定めること」と強調されました。

ね、会社みたいでしょ。

また、箱根はあくまでも「教育ツールのひとつ」に過ぎないとのこと。箱根駅伝を通じて、社会に役立つ人材育成をしているというお立場です。

スポーツはプロ・アマ問わず、選手の健康や学業、家族などとの人間関係を損ねてでもの勝利至上主義に陥りがちです。

中学の顧問は中学で、高校の顧問は高校で勝たせるために、選手に無理をさせ、怪我で引退とか燃え尽き症候群……という話も珍しくありません。

指導者も選手も、原監督のような視点を忘れてはいけないと感じます。

また「いい子」の概念を変える必要がある、というお話も印象的でした。

昔は言われたことを正確にこなせる子が「いい子」でしたが、現在のように「正解」がわからない時代は、「応用・活用」さらには「発見・探究」していける「自律」した人材こそが「いい子」「いい人材」ということです。

そして自律したものが集うことで、自分たちで考え行動して成果を出す「自走する組織」ができるということでした。

こんなチームで4年間を過ごしたら、そりゃ「社会で活躍できる人材」へと成長しますよね。

心理的安全性を確保する

この「自律」した人間を育む大切な要素として「心理的安全性」を挙げ、そのやりとり実例がコーチングセッションのようだったのも印象的でした。

「心理的安全性」とは、自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態のことです。

つまり「自分が拒絶されたり、罰せられたりしないと確信できる状態」のことです。

ビジネスにおいては、心理的安全性が高いほど仕事の効率が上がり、成果が大きくなると言われています。

もちろん学校でも家庭でも、心理的安全性は大切です。

親も先生も友達も自分を拒否しない、罰しないと感じていれば、子どもは安心して自信をもって過ごしたり、ものごとに取り組んだりすることができますからね。

私も娘たちや仲間、お客さまらに対して、まず心理的安全性を感じてもらえるよう心がけています。

それがあってこそ、信頼してもらい、胸の内を語り、挑戦したり自分を発信したりする勇気が生まれると考えているからです。

自分の考えは間違っていないことを再確認できて、嬉しくなってしまいました。

故障していては強くなれない

それから、故障がつきものの長距離走において、選手と怪我の関係をどう捉えていらっしゃるかも知りたいと講演前に考えていました。

その点については、「故障していては強くなれない」という言葉が象徴的でした。

というのは、青学の学生の駅伝チームのメンバー選考のお話です。

大学駅伝は箱根駅伝に出るまでにもチーム内で選考があります。チーム内選考に入るためには、夏の練習の参加率を満たすことが条件とのこと。

これは夏の練習量が冬の強さにつながっていることがデータで証明されているからだそうです。

また、大会は箱根だけではありません。出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)、全日本大学駅伝(全日本大学駅伝対校選手権大会)など、箱根駅伝以外の大学三大駅伝の大会もあります。それぞれの駅伝はチームの人数も、距離も異なります。

選手たちは夏の練習をこなし、それぞれの大会の距離を考慮しながら、長期間にわたり調子をコントロールする必要があります。

つまり、どこか1つの選考会や大会にむけて、そのときだけ無理をする(無理は故障につながります)ことは通用しません。

選手層は厚く、怪我をして調子が悪くなれば代わりがいます。怪我なく継続して調子良く走り続けられないと、勝負ができません。

だから、怪我しない練習を心がけなくてはいけない。無理して怪我するようでは、強くなれないんですよね。

この考え方は仕事や人生の局面においても共通だと感じました。

仕事でも、育児や介護などでも、いっとき無理して何かしらの成果を出しても、ハードワークのせいで心身を病んだり怪我したりすれば、大きなロスが待っています。

それも、ときには仕事や家族を失ったり、命を断ったりするような大ロスです。

それなら、自分の限界がどこかを見定め、無理せず続けられる範疇で最大の成果を出すにはどうするかを工夫すべきです。

私はこれまで、仕事やスポーツに対しては「少しずつでもやる」「低空飛行でも落ちない」をモットーに、無理せずに続ける工夫を心がけてきました(そう気にしても、無理しがち。気を付けなければなおさらでしょう)。

おかげさまで、大活躍といかないまでも、いろんなことを楽しく継続できています。私のこうした姿勢についても、間違いではないと再認識できたお話でした。

できないことは増えるけど、できることはある

今回のお話を伺い、これから年齢を重ねていくなかも怪我や心身の不調に気をつけながら、仕事でもプライベートでも好きなことを無理せず続けていこう!と誓いました。

また、原監督は選手としては怪我で挫折。それを活かして指導者として成功されています。私たちもさまざまな失敗や挫折を経験します。そのうち何が人生の肥やしになるかは、後にならないと分からないとしみじみ。

歳をとるとできないことも増えていきますが、周囲の人たちに心理的安全性を感じてもらい、勇気づけられる人間になって応援することはできるかな……などと励まされていました。

と、当初に原監督が述べられとおり、スポーツとビジネスには共通項がいっぱい。いや、スポーツと人生には共通項が……、といっていいかと思います。

スポーツ、ビジネス、教育、バートナーシップと、さまざまな分野について、参考なる講演でした。今度は原監督の著書も読もうっと!

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