”自民党の萩生田光一幹事長代行は2018年5月27日、宮崎市での講演で、0~2歳の乳幼児の養育に関し「言葉の上で『男女共同参画社会だ』『男も育児だ』とか格好いいことを言っても、子供にとっては迷惑な話だ。子供がお母さんと一緒にいられるような環境が必要だ」と持論を展開した。”というニュースが話題になりました。
【おじいちゃんの1輪車 2009年4月23日撮影】
「男の育児は子供にとって迷惑」発言は海外でも注目
上の記事には以下のような文面が続いていました。
同時に「はっきりとした結果は統計を取ることができないが、どう考えてもママがいいに決まっている。0歳からパパがいいと言うのはちょっと変わっていると思う」と指摘。子育てについて「仕事をしていないカテゴリーに入れるのがおかしい。子育てという大変な仕事をしているお母さんたちをもう少しいたわってあげる制度も必要だ」と訴えた。(共同通信、毎日新聞から引用)
ネットでは、「男の育児は子供にとって迷惑」「赤ちゃんはママがいいに決まっている」の部分がクローズアップされました。
「母親に育児を押し付ける前提の社会づくりが必要ということか」「パパが助けてくれたおかげで、どれだけたすかったことか」といった論調で非難があつまりました。
ツイッターには「#男の育児は迷惑じゃない」というタグも表れました。ワシントン・ポストもこの話題を取り上げました。
我が家の娘とおじいちゃんの場合
ちなみに、我が家は「男の育児」がないと成り立たちませんでした。
私が三女を生んだあと、生活費を稼ぐために、3ヶ月からフルタイムで働きはじめたため、三女の育児は私の両親、とくに父が担当しました。
0歳の三女に冷凍母乳や粉ミルクを与え、おしめかえ、お風呂、遊び、保育園の送迎など育児全般を担ってくれた私の両親が迷惑なんて、ありえません。
【越中だいもん凧まつりにて 2008年5月】
手間と愛情を惜しみなく注いでくれたことに、私は感謝しかありません。
小学6年生になった三女は萩生田発言について、
「子供に迷惑なわけないじゃん! めっちゃ仲良しやぜ」
と完全否定しております。
【除雪機にママさんダンプをつないでソリ遊び。母は仕事にでかけます。2011年1月撮影】
萩生田光一さんは、どんな人?
私はこうした発言があったと聞いた時、自分の父親(74歳)と同じくらいの田舎出身のおじいちゃん政治家を想像していました。
が、萩生田光一さんは、1963年八王子生まれの54歳。なら、大人になるころには、男女雇用機会均等法(1985年制定、86年4月施行)もできている世代です。
ここのところ、政治家のパワハラやらセクハラやら、「子供は3人以上」やら賑やかです。なぜこの時期にこんな発言を?と疑問はますます深まるばかりです。
発言はどんな文脈でなされたのか
こうした報道の際、気をつけたいのが「どんな文脈でその発言があったか」ということです。
前後で話していた内容によって、同じセンテンスでもまったく違う意味に読み取れることがよくあるからです。
講演の動画は見つけられず、全文も確認はできなかったのですが、2018年5月27日の朝日新聞に掲載されていた発言要旨が比較的詳しいようです。
ちょっと長いのですが、以下発言要旨を引用させていただきます。
東京ではいま0歳の赤ちゃんの保育園が足りないことが問題になっていて、国では「待機児童0」を目指すと言っています。もちろん今の対処として待機している赤ちゃんを救済していくのは大事なことでしょう。しかしみなさんよく考えて頂きたい。0歳の赤ちゃんは生後3~4カ月で赤の他人様に預けられることが本当に幸せなのでしょうか。
子育てのほんのひととき、親子が一緒にすごすことが本当の幸せだと私は思います。仕事の心配をせず、財政的な心配もなく、1年休んでも、おかしな待遇をうけることなく、職場に笑顔で戻れるような環境をつくっていくこと。もっと言えば慌てず0歳から保育園にいかなくても、1歳や2歳からでも保育園に入れるスキーム(枠組み)をつくっていくことが大事なんじゃないでしょうか。
子育てというのは大変な仕事です。これを「仕事をしていない」というカテゴリーに入れてしまうのがおかしい。世の中の人みんなが期待している「子育て」という仕事をしているお母さんたちを、もう少しいたわってあげる制度が必要なんだと思います。
(子育ての話のなかで)「お母さん」「お母さん」というと、「萩生田さん、子育てを女性に押しつけていませんか。男の人だって育児をやらなきゃだめですよ」とよく言われるんです。
その通りだと思います。だけど、冷静にみなさん考えてみてください。0~3歳の赤ちゃんに、パパとママどっちが好きかと聞けば、はっきりとした統計はありませんけど、どう考えたってママがいいに決まっているんですよ。0歳から「パパ」っていうのはちょっと変わっていると思います。
ですから逆に言えば、お母さんたちに負担がいくことを前提とした社会制度で底上げをしていかないと、言葉の上で「男女平等参画社会だ」「男も育児だ」とか言っても、子どもにとっては迷惑な話かもしれない。子どもがお母さんと一緒にいれるような環境が、これからはやっぱり必要なんじゃないかと私は思います。
子育てのほんのひととき、親子が一緒にすごすことが本当の幸せだと私は思います。仕事の心配をせず、財政的な心配もなく、1年休んでも、おかしな待遇をうけることなく、職場に笑顔で戻れるような環境をつくっていくこと。もっと言えば慌てず0歳から保育園にいかなくても、1歳や2歳からでも保育園に入れるスキーム(枠組み)をつくっていくことが大事なんじゃないでしょうか。(2018年5月27日の朝日新聞)
よいことも言ってはいるが……
この要旨を見ると、とてももったいない感じがします。それは、いいことも言っているからです。例えば、
- 産後すぐの身体がしんどい時期に「仕事の心配をせず」ゆっくりできる
- 「お金がないから」という理由で、希望に反して仕事を再開しなくていよい
- 職場に気兼ねなく1年休みたいと思えば休める
- 0歳から無理やり入れなくても、入れたい時期に保育園に入れる
こうしたことは、母性保護や労働市場での母親差別、保育園の定員問題などに関わることで、産後も仕事を続けようというママから見ると、多くの方がもっともだと納得、賛成できるご意見ではないでしょうか。
母親への負担と差別がなくならないのに、働け輝けと言われることに反発を覚える人も多いでしょう。
私も、産後3ヶ月から仕事再開した身なので、それらの意見には賛成です。正直、身体はきつかった。子供と離れて授乳できない時間が長いため、張る乳が痛いわ、悲しいわで。
すべての母親が産後、経済的に保証されていれば、どれだけよいだろうと思います。
萩生田さん、ここだけ言えばよかったのに。
果たして、この日の発言の何がまずかったのでしょうか。
その場で発言を聞いたわけではないので、先に引用した要旨を題材に考えてみました。
よい意見も台無しにする発言が多数
保育のプロに無礼
この日の講演が思わぬ反感を買ったのは、その前後の文脈が悪すぎたからではないでしょうか。
例えば、「0歳の赤ちゃんは生後3~4カ月で赤の他人様に預けられることが本当に幸せなのでしょうか」という問いかけ。これは
「自分は幸せではないと考えています」
という答えが前提になっている質問ですよね。
「赤の他人様」ということは、祖父母は除いた「プロ保育者」を指すものと考えるのが妥当でしょう。
0歳児保育を担当している保育士や託児施設の職員さんに対して「預けられるのは幸せではない」。非常に失礼な言い方だと感じました。
世論との乖離
「統計をとることができない」とのこと「統計」を持ち出すくらいなら、関連する統計で傾向をチェックしておけばよかったのにと思います。
まず、「女性の活躍推進に関する世論調査」(H26内閣府)を見れば、男性が「家事・育児を行うこと」に関して、男性は「男性も家事・育児を行うことは、当然である」、女性は「子どもにいい影響を与える」が最も多い回答になっていることがわかります。
引用:内閣府男女共同参画局ホームページより
先の発言が日本の世論からかなり離れていることに気付いていなかったのでしょうか。それとも、あえて、「世論にもの申す!」という発言だったのでしょうか。
「いたわってあげる」の内容もズレている
世の中の人みんなが期待している「子育て」という仕事をしているお母さんたちを、もう少しいたわってあげる制度が必要なんだと思います。
の発言に関しては、だから世間のママもパパも「父親の仕事時間を短くして、父親の育児時間を増やさねば」と感じているわけですが、この「いたわる」の内容もズレています。
育児時期の男性の労働時間が長いことに関する統計
引用:内閣府男女共同参画局ホームページより
日本の男性の家事育児の時間が短いことに関する統計
引用:内閣府男女共同参画局ホームページより
育休や時短勤務したいのにできない現状についての統計
引用:内閣府男女共同参画局ホームページより
と、統計から「男性が家事・育児をやりたいと考えながらできていない」傾向がわかります。
しかし、「0~3歳の赤ちゃんに~どう考えたってママがいいに決まっているんですよ」という発言がありました。
直前の
「萩生田さん、子育てを女性に押しつけていませんか。男の人だって育児をやらなきゃだめですよ」とよく言われるんです。
と合わせると「ママがいい=母親が子育てしたほうがいい」と読み取れてしまいます。
となると「いたわってあげる制度=母親がもっとたくさん育児しやすい制度」となってしまいます。
実際の育児してる親は、「父親の育児時間を増やして、母親を楽にする」を考えているわけですからここもズレていますね。
とはいえ、ここはまあ、「世間はそうかもしれないが、自分はこう考えている」ということで、発言すること自体はいろんな価値観(世間とズレていたとしても)があるということで、よいのかもしれません。
さまざまな家庭、夫婦があることが抜けている
一番反感を買ったのは、自分が持つあるひとつの価値観、ひとつの家族像への決めつけではないでしょうか。
「0~3歳の赤ちゃんに、パパとママどっちが好きかと聞けば、はっきりとした統計はありませんけど、どう考えたってママがいいに決まっているんですよ。」
「どう考えたって」ってアナタ……。
父子家庭など母親がいない子、祖父母や施設で育てられている子、母親が母性をどうしても感じられないとか、母親が心身の病気などでで十分な育児ができないとか、さまざまな事情のご家庭は「どう考えれば」いいのでしょうか。
父子家庭は、ひとり親家庭の15%を締めます(平成24年厚生労働省)。
平成27年度の司法統計によると、離婚調停・離婚審判で離婚した夫婦のうち、父親が親権者となったのは1947件、母親が親権者となったのは18416件です。未成年の子供がいて離婚したとき、1割の子供の親権者は父親です。1割というと、左利きくらいの割合です。そのくらい少なくない割合で、子供を育てる役割環境として父親のもとがふさわしいと判断されています。
子供を生んだだけで、全員が理想的なよい母親になれるわけではありません。
育児を「手伝う」のレベルでなく主体的に行っている父親もいます。
いろんな家庭環境があり、いろんな夫婦がいるのに、
「子供は母親が好き。母親はもっと家事育児できたら幸せ」
と十把一絡げにしたのは、よくないと感じます。
そもそも「父親と母親のどっちがいいか」と子供に尋ねることに、なんの意味があるのでしょう。
憶測でものを言うな
また、文章・発言の構成という視点で考えると、決めつけた主張の根拠が「憶測」だったところが一番のツッコミどころでした。
「主張」に説得力をもたらすのは「根拠」です。ところが、
はっきりとした統計はありませんけど、どう考えたってママがいい
とくると、なんのエビデンスもないなら「ただの自分の好み??」と突っ込まれても仕方ありません。
政治家なら、自分の好みや価値観を押し通すのではなく、広い視野、高い視点で考えた根拠をもとに主張されることを期待されるのではないでしょうか。
ちなみに、意見を話すときに「理由も添える」というのは、小学校の中学年くらいから、国語の授業で習っているはずです。
「男性の育児がよい影響を与える」の根拠
さらに、「憶測」が続きます。
言葉の上で「男女平等参画社会だ」「男も育児だ」とか言っても、子どもにとっては迷惑な話かもしれない。
については、子どもに聞いてみたのでしょうか。この根拠も示されません。
反対に、「男性も育児」をして「男女共同参画社会」を実現することが「よい影響を与える」ことは、多くの研究で証明されています。
政府が出している近年の調査結果だと、以下のようなものもあります。
男性の暮らし方・意識の変革に向けた課題と方策(平成29年3月 内閣府男女共同参画会議 男性の暮らし方・意識の変革に関する専門調査会 )
さまざまな統計結果をもとに、「男性が家事・育児等に参画する意義」ついて以下のようにまとめています。
家庭
- 夫婦で過ごす時間の増加や満⾜度の向上
- ⼦供に対する好影響
男性
- 職業⽣活におけるキャリア形成への寄与(段取り⼒、コミュニケーション⼒、マネジメント⼒等の向上、多様な価値観の醸成 等)等
- 地域における新たなネットワークの構築
⼥性
- 家事・育児等の軽減による、さらなる⼥性活躍の推進
企業
- 多様な⼈材の増加による業績への好影響
- 業務効率化、⽣産性向上への寄与
社会
- 少⼦化対策につながる(男性の家事時間伸⻑による第2⼦以降の出⽣増 )
こういう「統計」も、チェックされてないのでしょうか。
検索をかけてヒットしたものを読むだけでも、論文や研究者の発言を確認できました。
日本女子大学人間社会学部 准教授 永井 暁子 父親の子育てによる子どもへの影響
ここでは、「学童期、思春期の子どもの抑うつ度に対しては、母親の影響が強い一方で、父親との関係の満足度の影響もみられる。
父親との関係満足度は会話や情緒的サポートと関連していることからも、父親が子どもに対する理解を深めることが重要であると考えられる。
父親が子どもとの関係を良好に保つことは子どもにとって財産である」
といったことが述べられています。
ここでは、「父親が積極的に子育てに参加した場合は子どもの言語能力が高く、学力も高いという調査結果がある。
父親とよい関係を築いている女の子は10代で妊娠する確率が低く、男の子も犯罪を犯す確率が低い。
一方、父親とよい関係が築けなかった少女の10代での妊娠の確率は、2倍にものぼる。
さらに父親が積極的に子育てした家庭の子どもは、将来貧困に陥る可能性が低いという結果も出ている」
多様な家族スタイルや少数派も同じように支援
もちろんこうした調査や統計結果とてケースバイケースです。
父親の状態や家族環境によっては、必ずしも父親の育児参加がベストといえないこともあるかもしれません。
つまり、母親でも父親でも祖父母でも、育児している人に対して、経済的に困らないよう、心身がしんどくならないよう、支援すればいい話しです。
あるひとつの価値観、あるひとつの家族像に合致する人たち(今の例だと「母親が仕事を減らすなどし、多くの育児負担を担っている」家庭)だけが手厚く支援され、それ以外が放おっておかれることがあってはいけません。
もしかすると聞き手が、育児に熱心な母親の団体戦などで、リップ・サービスだったのかもしれません。
もしそうなら、他の属性(今回は他の国)の人がその発言を目にしたとき、どう思うかも配慮したいものです。
いろんな意見を尊重することも、小学校の国語で習います。
というわけで、萩生田さん発言の何がマズかったかは
- 主張に根拠(さらに言えば、具体例も)がない
- 多様性が尊重されず不公平
- 様々な立場の人がどう受け止めるか配慮していない
の3点だと考えています。
商店日報
尊敬する若手社長とご一緒し、とある現場に調査に出かけました。
新しく知ったことがいっぱいで、たくさん刺激されてきました。
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